SHIINBLOG

仕事とか科学とか

労働問題や面白い科学の話題について書き綴ります

「残業が少ないほどいい会社」は本当か?という記事について

非常に気になるタイトルの記事を発見した。

 

president.jp

 

確かに残業が少ないからと言って良い会社とは限らない。でも残業が多くて「良い会社」ってあるのかな?と疑問に思う。今回はこの記事について色々と考察していきたい。

 

〇目次

 

株価と残業時間の相関性

この記事は「一部には長時間労働に満足している人もいるのではないか」という素朴な疑問を発端としているらしい。確かにその様な人間は実在するし、かつての同僚でも率先して残業する人間がいた。

ただし長時間労働問題の本質とは、社員本人が「満足しているか否か」ではないのだ。長時間労働を当たり前とする文化は、生産効率の問題を置き去りにし、また「同調圧力」によって長時間労働を望まない人間にまで影響を及ぼすのが問題なのである。

以上の事から、私にとっては筆者の「素朴な疑問」からして疑問に思うものであり、いったいどんな記事なのか?と不安になりながら読み進めた(笑)

 

まずこの記事では、「残業時間の長さと株価上昇率は相関性が高い」という調査結果に注目している。株価上昇率が高いからと言って「良い会社」と言えるのか?と言う突っ込みは置いておき、読み進めてみる。記事の内容は「Vorkers」の調査結果に基づいており、調査について以下のように解説している。

 

Vokersは残業時間のほか、「有給休暇消化率」「待遇面の満足度」「社員の士気」「風通しの良さ」「人事評価の適正感」「法令遵守意識」「人材の長期育成」「20代成長環境」といった視点でデータを採っている。

原文まま

 

つまり、上記の各要素のうち、株価上昇率と高い相関性が認められたのが残業時間だったとのことである。

残業時間が月平均60時間以上の企業で2007~2016年の株価上昇率が高い企業は、日本M&Aセンターやキーエンス等の高いインセンティブで有名な企業を中心としているらしい。このことから、「待遇や社内環境への満足度が高いため、残業時間の長さが苦になっていないようだ」と結論付けている。

う~ん・・・。本人が苦にならなくても、それはモチベーションが高いから気づいていないだけで、長時間労働は確実に身体を蝕んでいる。その観点が抜け落ちているのはいかがなものなのか?

気持ちが張っていて本人は大丈夫なつもりでも、心疾患や脳疾患は突然発症してあっという間に命を奪う。長時間労働は、本人が「苦になっていない」からと言って楽観視できるものではないのだ。

またランキング上位の企業では、他に「建築や不動産業界の企業」も多くランキングしているそうだ。しかしこの論調についても、私は大きく疑問に思う。

以前にこのブログでも書いたが、建設業界は「建設工事現場が土曜・祝日も稼働する」ような業界なのである。1週間あたりの法定労働時間は40時間であるから、土曜日の勤務時間はまるまる残業時間扱いになるのである。そうすれば、月32時間は土曜出勤だけで残業時間になる。

ある意味、建築・建設業界はそれがスタンダードだと言えるのではないか?であれば、「残業時間が長いから株価上昇率が高い」とは必ずしも言えないのではないか。建築・建設業界全体がもともと長時間労働体質で、その中の何社かの業績が好調で、株価上昇率が高かったと言うだけのことではないかと考えられる。

 

残業時間が少なくても株価を上げた企業もある

そして次に、残業時間が月30時間以下で株価を上げた企業のランキングについても述べられている。これによれば第1位の日本調剤株式会社の株価上昇率は450%であり、日本M&Aセンターの603%と比較して遜色はない。そして以下のようにまとめられている。

 

社員が高いインセンティブに満足したり、仕事に強いやりがいを感じたりしている企業では、長時間の残業が株価の上昇に繋がっている現状が明らかになった一方で、ワークライフバランスに配慮しながらも高い株価上昇率を達成している企業もある。残業の長短に関わらず、会社が目指している方向と、社員が労働環境に求めていることが一致している場合に、それが業績や株価といった成果につながりやすいという傾向があるようだ。

原文まま

 

なんのこっちゃ。結局は残業の長短は業績や株価に関係ないという結論。私もそう思うし、それが現実であろう。

 

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データの整理と解釈に感じる問題点

元ネタのVorkersの記事を読んでみても、どうにもしっくりこない。

http://www.vorkers.com/hatarakigai/vol_28

まずデータの示し方が残念な感じなのである。「平均残業時間別 株価上昇率」では株価上昇率が-10%~10%の範囲しか示されていないし、「株価上昇率別 平均残業時間」では株価上昇率が-60%~60%の範囲しか示されていない。

株価上昇率と残業時間に相関性があると言うなら、フィルターにかけていない状態の関係性を示すデータを見て分析したいところだ。

またVorkersでも述べているが、このデータだけでは業績が良く仕事が多いから残業時間が長くなるのか、残業時間が長いから業績が良くなるのかは分からないのだ。

そしてこのデータだけでは、どうしても株式上場企業に限られてしまうので、「良い会社と残業時間の関係」については判断できるデータではないと考えられる。

 

まとめ

結局は良く分からないのが結論と言う、何とも言えない記事であった。

ただ1つ言えることは、残業時間が60時間以上でも30時間以下でも、株価上昇率が高い企業が存在すると言うこと。であれば、ワークライフバランスを考慮しても生産効率の面を考慮しても、「残業時間が少なくても株価上昇率が高い企業」が望ましいと言えるのではないか。

残業時間が少なくても業績が良い企業は、どのような仕組みでそれを実現できているのか?を良く分析することで、日本の労働生産性の向上につながるのではないかと期待される。

 

 

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