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【残業問題】定時で帰ることを問題視する日本社会は根底から変えなければならない【前編】

呆れてしまう記事を読んだので紹介します。

diamond.jp

 

 

所属意識の有無を問題にする時代錯誤

この記事に対するコメント、一部を見ただけでも批判的な意見が多くて安心しました。

これだけ「働き方に対する意識」が変わっている一方で、この記事の著者のような時代錯誤な人間もまだまだいるのです。主に「企業側」を相手にビジネスをしていると、そのような発想になってしまうのでしょうかね?私には理解できませんが。

とは言え、これを読んだ若いサラリーマンや、これから就職するであろう学生さんがこの記事を読んで「就職したら、そういうものなのか」と思ってしまわないよう、ひとつひとつ反証していきたいと思います。

 

新入社員が定時で帰ってしまう理由の1つに「所属意識の違い」が挙げられます。

決められた時間の中で、業務をこなす。こういったアルバイト感覚、学生感覚が抜けきっていないうちは、組織に所属しているという意識が根付くまでに時間がかかります。新入社員が「定時だから帰る」という行動は、まさにその意識の延長線上にあります。

原文まま

 

前提条件からして間違っていますね。

決められた時間の中で業務をこなすのは当然であって「アルバイト感覚」と揶揄するようなものではありません。時間は有限です。限られた時間で最大限の成果をあげる方が、企業の収益性に対しても有利になります。

それと「アルバイト感覚」と言うのはアルバイトと言う立場の人を軽んじているようで、私は好きではありません。

この記事全体に言えることですが、著者は以下の2つのシチュエーションを混同しているように思えます。

 

①今日中に終わらせるべき仕事が終わらないのに定時で帰る

②今日中に終わらせるべき仕事を終えて、定時に帰る

 

①は言うまでもなく、残業する必要があります。(※ここでは、なぜ定時で終わらなかったか?については論じません。本当はそこが重要なんですけどね。)

②の場合は正当な行動なのですが、何故か日本社会では嫌われるんですよね。この著者の場合、一見すると①を咎めているように感じる文面もあるのですが、根本的には②を嫌う心理が根底にあると感じられます。おそらくですが、深層心理の中に「仕事は無限にある」という概念が潜んでいるのではないでしょうか?だから「今日やるべき仕事を終えたのなら、明日の仕事をやりなさい。他の人の仕事を手伝いなさい。そうでないと、いつまでも仕事を覚えられない。」と言った風な概念があるように感じます。まぁ、どれも間違ってますけどね。

 

アルバイトの延長線上で働いている、と先述しましたが、もちろんアルバイトでも規定のシフト時間を過ぎてからも必要に応じて主体的に関わろうとす る人もいます。つまり社員・アルバイトに関係なく、本人の所属欲求の強さから行動は変わってきます。ですから、新入社員になったからといって、すぐに考え 方が切り替わるのかというと、決してそういう人ばかりではありません。

原文まま

 

本当に前時代的な時代錯誤がここまで甚だしいと、怒りを通り越して呆れてきます。「所属意識」とは、要は「社員は家族」と言った昭和の企業経営手法の延長上なのですね。もちろん、その組織の一員としての責任感を持つことは必要ですし、ある程度の所属意識は必要でしょう。しかし過剰な「所属意識」は慣れ合いを生み、組織を「効率よく利益を生み出す組織」から大きく逸脱させてしまう要因になります。

例えば私なら「どんなに大きな仕事でも、創意工夫を駆使して定時内で終わらせて大きな利益を生む組織」の一員であれば、大きな誇りを持てますし、「所属意識」が芽生えます。単なる「お友達組織」では低生産性の残念な組織になるだけです。

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管理職の「采配責任」の発想すらない愚かさ

また、入社したての場合には、組織に対して遠慮がちな部分があります。「何かやることはありますか?」「それ、お手伝いさせてもらえませんか?」 という一言が言い出しにくい新入社員もいるでしょう。そんな葛藤から逃避しようと、定時で帰るケースも考えられます。この場合には、所属意識よりも社会人としての意識が低いと言えなくもありませんが。

原文まま

 

出ました!頭の古いオジサンの伝家の宝刀「帰る前に『何かありますか?』 と聞きなさい」発言。私は不思議でしょうがないのです。工場では、あれだけ分業制が徹底したライン生産が主流なのに、なぜホワイトカラーの仕事は、その真逆なのか?

まず仕事は、管理職が「全体像を把握して内容を分割し、納期までの逆算で工程管理しながら、部下に仕事を割り振っていく」が基本です。これができていない管理職が多すぎるのが日本の問題なのです。そして著者のような立場の人間が「その発想すらない」のがさらに問題です。これでは管理職が育たないのも頷けます。

そもそも管理職の「仕事の割り振り」が機能していれば、「何かありますか?」は不要なものなのです。この「何かありますか?」は、その組織の仕事が定時に終わらないことを前提としているから生まれる発想なのです。

効率化のための創意工夫を怠り、「利益が出ないなら量をこなせ」と言う発想で仕事をするから定時で終わらないのです。そして定時で終わらない仕事量を抱えているのであれば、最初から指示を出しておけば良いのです。定時になる前に、管理職自身が「組織として今日終わらせるべき仕事」を適切に把握していない証拠です。適正に状況判断し、定時になる前に「残業命令」するのが管理職の仕事なのです。

「帰る前に『何かありますか?』 と聞きなさい」は、管理職としての職務を怠り、その責任を部下に押し付ける愚行だと言うことに、早く気づいて欲しいものです。

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残業が発生しない仕事配分をするのが管理職の責任

 また、新入社員に残業が必ず必要なのかは状況によって異なります。しかし、新入社員は経験のある社員に比べると、仕事のスキルが乏しいのは仕方ありません。状況によってはスキルを時間で補うことも必要です。例えば納期のある業務を任されたり、締め切りのある依頼をされた場合には定時だからと投げ出さずに、上司や先輩社員に“報連相”するなどの必要があります。

原文まま

 

まず残業とはどのような立場の社員であっても原則的には「不要」なものです。経営サイドに立った場合でも本来は不要なもののはずなのです。その前提条件が崩れているので、以上のような愚かな思考を産むのでしょう。

新入社員は経験がなく、仕事のスキルが乏しいのは当たり前で、ですので一定以上のトレーニングが必要です。企業によっては1か月以上に及ぶ研修会を行うこともあるようですが、それで一人前になるなら誰も苦労はしません。

企業における社内教育手法としては「オン・ザ・ジョブ・トレーニング*1」があげられます。

すなわち「仕事をしながら仕事を覚える」と言うやり方で、私はこれが社内教育で、経営の観点から見ても最も合理的ではないかと考えています。

「スキルを時間で補う」という状況を可能な限り発生しないように計らうのが、管理職のマネジメントです。

  新入社員には軽微な作業から任せていき、最初は同じ分量でも「期限までの時間」は多めに設定しておく。そして習得状況を見ながら、徐々に「仕事の分量と期限までの時間」の関係を調整し、負荷をかけて処理能力を成長させる。

といった工夫が重要です。

もちろん、締め切りがある仕事に対して「定時だからと投げ出す」のは問題です。ただこれは、上でも書いたように「やるべきことを終わらせて定時で帰る」ことと混同してはいけません。締め切りに間に合わないのに「定時だから」と帰るのは単に責任感の欠如であり、これは全く別の問題かと思います。

もっと言えば、管理職が「部下の現時点の能力を適正に把握し、残業が発生しないペース配分ができる締め切り設定をする」のが正解です。ただし人間のパフォーマンスは常に一定ではないため、途中で進捗状況を確認し、部下と対話して再調整する必要があります。その時に、必要と判断される場合は「残業命令」を下すのです。

このような対話の中で「この仕事をやることの意味」や「締め切りを守る重要性」を説いていく事で、部下の責任感が育まれると思います。

定時になって部下が帰ってから「締め切りがあるのに終わっていない」ことに気付き、「あいつ、帰りやがった!」と怒っている管理職は、自分自身が管理職失格だと言うことを肝に命じた方が良さそうです。

 

後編へ続く

以上のように、定時に帰る新入社員を非難する風潮は、会社や管理職の責任放棄に他なりません。本来、部署の仕事を大局的に俯瞰して見られる管理職が適切に采配してこそ、社員の能力が生きるのです。

無策で「会社に長くいる事」を是とする現在の日本企業の風土こそ、労働生産性を貶めている原因なのです。

後編へ続きます。

 

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