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個人に「健康ゴールド免許」をつくるなら、企業に対して「健康リスク・リミットポイント」の導入を!

長谷川豊氏が世間を賑わせている今日この頃。彼があの暴言を吐くに至った経緯は「膨らみ続ける日本の医療費を何とかしたい」と言うものであり、その気持ちは分からなくもない。しかしそのために「自己責任論」を前面に持ってくるのはどうかと思う。

ちなみに、あれだけ集中砲火を浴びた長谷川氏であるが、ラッキーなことに、以下のような「挽回」の場が用意された。

 

www.huffingtonpost.jp

 

長谷川豊氏の対談記事から見えた公平な医療の重要性

上の対談記事については、我々一般人から見れば、まだまだ消化不良感が残る内容だと、多くの方々が思ったことだろう。そして、この時の対談相手である野上春香さん(仮名、41)が、後日、その対談に際して思ったことについて発言している。

 

「長谷川豊さんになぜ強く反論しなかったのか」対談した腎臓病の女性患者が疑問の声に答える

 

対談内容も含め、野上さんが最も大切だと思っているのだろうと私が感じたのは、「最低限のセイフティーネットとしての医療」の重要性だ。

命を救われること。健康維持を保障されること。

これが全ての人間が持つ最低限の権利であり、それを保証できない国家なら、それは意味をなさないのではないか?と言うのが、野上さんの根底に流れている思想ではないかと感じる。そして、それと一向にかみ合わなかったのが長谷川氏の「自己責任論」なのだろう。

確かに、いくら周囲が注意を促しても、よろしくない生活習慣を続ける人が病気を患い、それに健康保険から医療費を払うのか?と言えば、少し考えてしまうところはある。しかし、ではどこまでを「不摂生」とするかなど、難しい問題がある。近年の社会学的研究によれば、低所得者層ほど、健康的な食事を摂ることができずに肥満傾向にあると言う*1。また野上さんが仰るように、人の体質に生まれながらの多様性がある以上、十把一絡げに「努力が足りないから不健康」とも言えないのが現状なのだ。健康な人に比べて糖分摂取量が少なくても、糖尿病になってしまう人は大勢いる。

その様な状況を考慮すれば、「努力不足だからペナルティを受ける」と言うのは民主的な思想から大きく外れるように思う。

 

健康ゴールド免許とは

長谷川豊氏の発言は、その中身がどうかは別として「日本の医療・社会保険制度」の問題について、多くの人々が考えるきっかけになったと言えるのではないか。その様な時流の中で、今度は小泉進次郎氏が「健康ゴールド免許」と言う構想を打ち出した。

 

www.huffingtonpost.jp

 

「健康ゴールド免許」とは、小泉進次郎氏ほか自民党若手議員が「2020年以降の社会保障改革の在り方」についての提言をまとめた中での、様々な施策のうちの1つとして打ち出したものだ。

ツイッター上では「きれいな長谷川豊」と揶揄されるなど、否定的な意見も散見される。ただ私は、謂わば「ダメな奴にはペナルティ」という思想の長谷川氏に対し、「健康管理に努めた人間にはインセンティブを与える」という方向性は、施策としては悪くないと思う。もっとも「健康管理に努めた人」をどのように評価するのか?と言う点に関しては大いに議論する必要はある。何せ上述のように「低所得者層ほど健康な食事をできない」と言う実態があるのだから。

つまり「健康管理に対する努力」が本人の意思とは裏腹に 「所得」に左右されるのであれば、 結局のところ高所得者層が得をして低所得者層の負担が増し、さらなる格差を生む可能性がある。

 

ブラック労働が「健康管理」を脅かす事実に着目して欲しい

低所得者層の場合、食事はどうしても安くて高カロリーの加工食品に頼らざるを得ない。トランス脂肪酸などによる低所得者層の肥満問題については、以前からアメリカで問題視されていたが、とうとう日本でもその傾向が強くなってきたらしい。

また必ずしも低所得ではなくとも、自分の思うように健康管理ができずにメタボ体質になってしまう人間もいる。何を隠そう、私もそのような人間の1人だ。

私の場合「所得」に関しては、高くも低くもなく中程度だと思う。しかし仕事がブラックなので、どうしても生活が不規則になってしまい、またストレスにより過食傾向になってしまう。繁忙期は深夜まで仕事をする場合が多く、まともな夕食を摂らずにカップラーメンやスナック菓子で空腹を満たしながら仕事。深夜に帰る頃になればまた空腹になっているので、コンビニに寄って酒と食べ物を買う。繁忙期は気持ちが高ぶっているからか、帰宅してもすぐには眠れない。どうしても酒を煽ってしまう。そして休日は疲れ切ってしまい、家で寝てばかりの時間を過ごす。こんな生活ではダメだと自覚していても、忙しさに流されてしまうのだ。怠惰な自分を情けなく思う毎日になってしまう。まさに自分の気持ちとは裏腹に、心身ともに不健康に陥ってしまうのだ。

しかし、ここ数年で私が所属する部署の仕事が激減してしまい、私にとって、生活を見直す好機になった。仕事量が適度で定時に帰ることができると、時間に余裕が生まれ、ストレスもない。そうなれば毎晩酒を飲むこともなくなり、毎日のようにジムに通って汗を流し、食事にも気を使って自分で調理するようになった。

決して自分が怠惰なのではなく、長時間労働によって時間の余裕を奪われ、ストレスまみれになってしまったのが原因だったのだ。

 

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健康リスク・リミットポイントの考え方

以上の私の実体験からも分かるように、長時間労働は個人の「健康管理に対する努力の機会」を奪ってしまう。また仕事が忙しければ体調が悪くとも病院に行けず、病が進行してしまう人も少なくない。

すなわちブラック労働およびブラック企業が、日本の医療費を増やす大きな要因となっていると考えられる。したがって、個人に「健康ゴールド免許」なるものを導入するのであれば、是非ともブラック労働の弊害についても着目した施策を実行して欲しい。

そこで私が思い描いているのが「健康リスク・リミットポイント」である。厚生労働省によれば、月の残業時間が80時間を超えると、脳疾患・心疾患等のリスクが増加すると言う。月80時間の残業に限らずとも、労働時間が長くなればなるほど、健康のリスクは高まると言われている。

また独立行政法人労働安全衛生総合研究所の「長時間労働者の健康ガイド*2」によれば、残業どころか、週40時間労働(1日8時間、週休2日)以上の労働で健康リスクが高まるという。

つまり「健康管理に努める人にインセンティブを与える」なら、一方で「従業員に健康リスクを高める労働をさせた企業にはペナルティを課す」必要があるのではないだろうか?

例えば月の労働時間を「定時の160時間+残業80時間の240時間」を上限として毎日の労働時間を差し引いていき、従業員1人あたり80ポイント以下から企業の医療費負担の義務を負わせるものとする。マイナスポイントが大きければ大きいほど、またマイナスポイントの従業員が多いほど、企業はより多くの医療費を国に治めなければならない。また同時に「是正措置報告書」を作成、開示する義務を負わせる。

そうすることにより、自らの努力により健康を維持している人間が得をする一方で、自らの意思とは裏腹に「ブラック労働によって健康を損なっている人」への救済措置になることが期待される。そして企業側も自ずと、従業員に長時間労働をさせない仕組みづくりを考えるようになるのではないか。

 

まとめ

日本は今後ますます少子高齢化が進み、年金問題だけでなく、増大する医療費に関しても対応が迫られている。そして国民の健康を損なう主要因として長時間労働があげられるのであれば、そこに焦点を当てた施策を考える必要があるのではないか。

「健康管理」は決して個人だけの問題ではない。従業員に長時間労働を負わせる企業にも大きな責任がある。したがって、個人に対して「健康ゴールド免許」をつくるのであれば、企業にも「従業員の健康を守る義務」を負わせなければならない

 

 

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