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定年後再雇用の賃金差別に関する裁判が「同一労働同一賃金」を軽んじた判決を下す

なにぃ??と言う記事を読んだので紹介します。

 

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運送業の定年後再雇用賃金問題について

このブログでも5月に取り上げた運送業者の定年後再雇用に関する訴訟は、「業務の内容や責任が同じなのに賃金を下げるのは違法」として、地方裁判所では原告側(社員側)が勝訴しました。

 

geogeokun.hatenablog.com

 

ところが、今回の東京高等裁判所における控訴審では、一転して原告側の敗訴となってしまいました。いったい何があったのでしょうか?

 

賃下げが「適法」と判断された要因は?

この判決で、定年後再雇用における賃下げを適法と判断した理由は以下の通りです。

 

  • 再雇用者の賃金減額は「社会的にも容認されている」
  • 高齢者の再雇用が義務付けられている中、賃金節約などのための賃下げ契約は「不合理とは言えない」
  • 「調整給」の支払いなど、正社員との賃金差を縮める努力をした
  • 退職金を支払っている
  • 被告側(長沢運輸)の収支が赤字
  • 賃下げ率約20~24%は同規模企業の減額割合の平均より低い

 

何ともお粗末な理由です。

 

①「再雇用者の賃金減額は社会的にも容認されている」について

定年後再雇用に際して賃金を下げることについて、社会的に容認されているなんて、何を根拠に言っているのでしょうか?

仮に大部分の企業において、定年後再雇用に際して賃金を下げているとしましょう。もし、それを理由に「容認されている」と言っているとすれば、それは大きな間違いです。何故なら、この裁判の争点は「業務内容や責任が定年前と同じにも関わらず賃金が低い」であり、「定年後再雇用に際しての賃下げ」そのものではないからです。

賃下げそのものは問題にはなりません。しかしそれは「定年前と業務内容や責任が異なる」のが最低条件です。例えば若手社員の教育やサポートが主な役目だとか、週3日勤務であったりなど、定年前よりも軽微な業務内容で責任が小さくなっているなら、賃下げは「適法」になります。

 

②「高齢者雇用が義務→節約のための賃下げは不合理ではない」について

これも論点がずれています。確かに企業側としても定年後再雇用の義務は負担かもしれません。しかし、それをどのような方向に持っていくかは企業の工夫次第です。高齢者の特性を生かして「戦力」にすれば良いことです。

何度も言いますが「定年前と同じ業務・責任」なのが問題なのです。節約目的の賃下げは会社側の勝手な都合です。

 

③「調整給の支払いで努力した」について

「調整給」について、この記事では詳細が示されていないので分かりませんが、少なくともそれによって賃下げ分が埋められているなら訴訟にはなっていないでしょう。そもそも、その様な「努力」をするくらいなら賃下げをしなければ良い訳ですし、またどうしても賃下げしたいのなら、業務内容や責任を軽減するべきです。

 

④「退職金を支払っている」について

一度、定年退職しているので当たり前のことです。それをもって、「定年前と同じ業務・責任」に対して賃下げをして良い理由にはなりません。

 

⑤「会社の収支が赤字」について

これも会社の都合であり、正当な理由にはなりません。会社の経営難を理由に賃下げしたいのであれば、まずは経営者の賃金カット、次いで管理職の賃金カットを行うのが筋です。それでも足りない場合に全従業員に給与カットを「申し入れ」し、労働組合が承認しなければ、従業員の賃金カットはできません。

この場合の賃下げは、再雇用時の給与設定なので厳密には上記の「経営不振時の給与カット」の事例には当たりません。しかし会社の経営不振が理由になるのであれば、あらゆる物事がなし崩し的に会社の都合で改悪できることになってしまいます。

 

⑥「賃下げ率が同規模企業より低い」について

減額率のみに着目してしまっては論点がズレてしまいます。同規模企業の減額率が高いにしても、それは「定年前よりも業務内容・責任が軽減されている」なら妥当なのですから。「賃下げ率と業務内容・責任の関係」の比較をしなければ何の意味もありません。

 

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同一労働同一賃金の考え方

そもそも、安倍内閣が「同一労働同一賃金」を謳っている中で、よくもこの様な判決を下せるものだと呆れてしまいます。もちろん、司法は時の政府に迎合してはなりませんが、注目されている「同一労働同一賃金」を軽視した判決はいかがなものかと思います。

ちなみに労働契約法20条では、正社員と有期雇用の待遇格差について判断する際、以下の3つの要素を考慮するとしています。

 

①仕事の内容や責任

②配置などの変更の範囲

③その他の事情

 

今回の判決では「その他の事情」を重視したとのことですが、それって結局は「何でもアリ」と言うことになってしまいます。これについては、以下のように専門家が指摘しているようです。

 

高裁判決について、水町勇一郎・東大教授(労働法)は「『その他の事情』を重視しているのが一審との大きな違い。『その他の事情』として、再雇用での賃金減額が一般的だという事実を重視し、格差を認めている点に問題がある」と指摘する。

原文まま

 

原告代理人の弁護士によれば「納得しがたく、速やかに上告の手続きをする」とのことでしたので、最高裁の判決が注目されます。

 

まとめ

定年後再雇用が企業に義務付けられたことで、確かに企業にとって負担は大きくなるかも知れません。かと言って、それが「定年前と同一の業務・責任であっても賃下げして良い」と言う理由にはなりません。賃金を下げるのであれば、業務内容や責任は軽減する必要があります。

政府は「正社員と非正社員の待遇差はどんな場合に合理的で、どんな場合に不合理かを示すガイドライン」をつくる予定とのことですので、まずはそれに期待したいところです。

 

よろしければ、ごちらもドウゾ

 

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