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仕事とか科学とか

労働問題や面白い科学の話題について書き綴ります

教員のブラック労働問題の原因はどこにあるのか? 単なる人数不足ではない可能性について

社会・労働問題

教員の悲鳴が続々と届いている。近年叫ばれている教員のブラック労働問題の原因はどこにあるのか?この記事で論じていきたい。

 

news.careerconnection.jp

 

〇目次

 

教員の過酷な日々

ネットで労働問題についてアンテナを張り巡らしていると、教員の悲惨な労働環境が世間で問題視されることが多いように思う。ここ数年で非常に目立つ印象があるが、これはインターネットの影響で個人の発信力が増したからなのか、それとも近年の傾向なのか?

それはともかく、とにかく現在の教員の労働環境は非常に厳しくて、その原因の大半は「部活動」にあるように感じられる。部活動の顧問としての付き添いにより、通常の教師としての仕事以上に時間がとられ、朝・夕・祝日と、とにかく労働時間が長い。

上記の記事では、教員歴3年目の20代女性の切実なツイートが紹介されている。

 

帰宅は22時。身支度をして2時間の仮眠をとって起きるのが午前2時。そこから教材研究を始め、朝の6時には出勤するという生活を送っているようだ。

原文まま

 

こんな生活を毎日続けていたのでは、身が保たれるハズがない。

 

「学級経営も楽しい。生徒とふれあうのも楽しい。教科指導もやりがいがある。でも、部活だけは、本当に部活だけは、苦痛。仕事じゃないことで毎日のように保護者や上に冷たい目でみられて、神経すり減らすのは本当に辛い」

原文まま

 

これは本当にそうであろう。教員はあくまで「勉強を教える」と言う立場であり、学生の時も教育の勉強がメインであろう。にもかかわらず、部活動の顧問に携わる時間が圧倒的に長く、心身ともに消耗しているようだ。

 

教員の悲惨な労働環境は今だけのことなのか?

非常に悲惨な教員の現状。なぜ、このような事態になっているのか?

 

現在休職中という中学校教員は、「異常な忙しさと、教員を型にはめてくる管理職。ブラックです」と教員が置かれる現状を吐露。高校教師をしている男性も自身のツイッターで、13時間勤務の負担や教材研究を帰宅後に行う日常を投稿。

原文まま

 

部活動の顧問を含めた13時間以上の勤務と、帰宅後の「教材研究」が教員のブラック労働の元凶の様だ。帰宅後の教材研究は、まるで幼稚園の先生や保育士の「仕事の持ち帰り」とダブる印象を持つ。

ただ、1つ気になることがある。

教員のブラック労働は今でこそ、この様に問題意識が高まっているものの、「労働の中身」は単純に昔と大差ないように思える。私が中学生の時に、ここまで先生は消耗してたかな?と思うと、少し疑問に思うのが本音なのだ。

このようなことを考えると、教員の労働問題が、ネットではここまで大事になっているのに、テレビを含めた世間ではそこまでではないのは、何か原因があるのではないか?と感じずにはいられない。

 

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教員の現状を調べてみると・・・

生徒に勉強を教える。部活動の指導をする。教え方を研究する。

この様な「先生の仕事」は、昔も今も、そこまで大きく変わらないのではないかと思う。

だけども、以前(私が子供の頃)と比べて、今の先生の方が明らかに消耗しているイメージでなのだ。先生たちの今と昔とでは、いったい何が違うのか?

 

私が危惧するのは、もしかしたら日本の教育界の上層部が本気で「最近の若者は根性が足りない」と思ってやしないか?だ。これまでもこのブログで話しているように、日本人は「精神論」が大好きだ。特に年配の方々は。

その様に考えてみると、現状の若手教員の惨状が放置されているのは、教員上層部が「今どきの若者は根性が足りない」と考えていることが原因なのではないか?

しかし現在の教員の悲惨な労働環境には必ず精神論以外の要因があるはずであり、それを明らかにしない限り解決策は見えてこない。

そう考え、まず中学校の生徒と教員についてのデータを集めたので見てみよう。

 

教員の人数は?

近年の教員が昔より多忙だとするなら、単純に考えて「人数が減った」が予想される。

しかし下のグラフを見ると、昭和60年~平成2年の30万人弱が最高ではあるものの、平成17年以降は25万人前後で一定しており、近年極端に教員人数が減ったとは言えない。

 

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※中学校教員の人数:文部科学省,文部科学統計要覧(平成27年度版)のデータからジオジオが作成

 

教員1人あたりの生徒数は?

教員数が10年前とそこまで変わらないのであれば、教員1人が見なければならない生徒数はどうなのか?少子高齢化で生徒数は減っているだろうが、それ以上に教員数が減っている可能性も考えられる。

「生徒数と教員1人あたりの生徒数」の推移を下グラフに示す。これを見てみると、昭和30年の「教師1人あたり生徒30人」に比較すれば、概ね右肩下がりで推移し、現在では「教師1人あたり生徒15人」以下になっている。このデータからは、教員1人の負担はむしろ「軽くなった」と捉えられる。

 

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※中学校生徒数と教員1人あたりの生徒数:文部科学省,文部科学統計要覧(平成27年度版)のデータからジオジオが作成

 

教員の年齢構成は?

では教員の年齢構成はどうなのだろうか?

下のグラフを見ると、50~55歳未満が圧倒的に多い。このデータで示される教員の年齢構成は平成25年が最大で(※データは平成19、22、25年のみ)、その時の教員全数254,235人に対して、この年代が19.5%で49,575人である。部活動の顧問に抜擢される若手教員を仮に30歳未満とすれば、その人数は36,355人となる。

 

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※中学校教員の年齢構成:文部科学省,文部科学統計要覧(平成27年度版)のデータからジオジオが作成

 

教員年齢構成の推移を見てみる

では今度は、教員の年齢構成の推移を見てみよう。

今回得られた文科省の平成27年度データでは、平成19年、22年、25年のデータのみだったので、それでグラフを作成。

これを見てみると、平成19年の40~55歳未満の人数が突出して多いことが分かる。その人数は約13万5千人に達する。つまり現在49~64歳の昭和27~42年生まれの人間が非常に多い。

教員は一般的に考えて、晩年になってから初めてその職に就く人間は少ないだろう。つまり、同年代の人数は年々少なくなると思われる。そう考えれば、彼らが若かった頃はもっと人数が多かっただろう。

年代ごとの人数の推移を見ていくと、平成19年に突出して多かった40~55歳未満の人数は、平成22年では45~60歳(約50%)の約12万7千人に減少する。退職して減少したのだろう。なお45歳未満の教員数は約12万人。それ以上の年代とあまり変わらない。つまり高齢化が進んでいると考えられる。

では、平成25年ではどうであろうか?人数が多いのは45~60歳未満で約12万4千人であり、平成22年とあまり変わらない。そしてそれ以下の年齢の教員数は約12万4千人で概ね同数となる。

つまり、45~60歳の15歳幅の人数と、25未満~45歳の約20歳以上の幅の人数がほぼ同数で、年配の人数の方が多い。ちなみに60歳以上は2.2%で約5500人いるので、45歳以上の方が明らかに人数が多いことが分かる。

 

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※中学校教員の年齢構成推移:文部科学省,文部科学統計要覧(平成27年度版)のデータからジオジオが作成

 

教員の今と昔とを比べてみる

上述のように、同年代の教員人数は年を経るごとに減ることはあれ、増えることはないであろう。事実、上のグラフで平成19年(青)に最も人数が多かった年代は、平成22年(赤)、平成25年(緑)と年を重ねるごとに、そのまま概ね上の年代にシフトしていることが分かる。

そう考えると現在人数が多い50~55歳の約5万人は、若い頃は概ね同等以上の人数だったと想定できる。約25年前の平成2年、彼らは25~30歳で約5万人。その時の生徒数は約537万人であった。仮に部活動の顧問が30歳以下で担当していたとすると、教員1人あたり約107人の生徒の部活動を見ていたことになる。

一方、現在ではどうか?25~30歳の教師は約2万7千人。それに対して生徒数が約354万人であるため、教員1人あたり約130人になる。

現在の50~55歳の教員人数が25年前はもう少し多かったであろうことを考慮すれば、現在の教員の部活動に対する負担は約1.5倍に増えたと考えられる。

ちなみに50~55歳の年代は平成19年から25年の5年で概ね4000人減少している。それから単純に逆算すれば、彼らが25~30歳の時は7万人だったと予想され、そうなると教員1人あたりの生徒数は77人にまで減り、現在は約1.7倍と言うことになる。

 

冒頭で紹介した記事では、現在の教員は1日で13~16時間の労働を強いられている。

上記の「現在の部活動に対する教師の負担が平成2年当時と比較して概ね1.5倍」で単純に逆算してみると、当時の教員の労働時間は1日「8.6~10.6時間」となり、それでも法定労働時間は超えるものの、現在より5時間以上は少ない。

※25歳未満については、大学を卒業してから教員免許を取得するまでのタイムラグや、近年では大学院への進学率が上がっていること等を考慮し、過去と現在の単純な比較は困難と判断し、見当から除外している 。

 

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教員のブラック化は「若手不足」にある可能性 

以上のデータ分析結果を要約すると、以下のようになる。

 

  • 教員の人数は昭和60年~平成2年をピークとして減少するが、平成17年以降は約25万人で概ね一定している。
  • 中学生人数は昭和60年に約600万人のピークを示し、それ以降は減少している。
  • 教員1人あたりの生徒数は昭和30年以降で概ね低下し続けており、近年では教員1人あたり生徒15人で概ね一定している。
  • 教員の年齢構成を見ると、45歳以上が全体の半数以上を占めており、若手よりベテラン(管理職)の人数が多い。
  • 教員の25~30歳未満に限定すると、平成2年の約5万人に対して現在は約2万7千人であり、約1/2に減少している。
  • 仮に25~30歳未満のみで部活動顧問を担当するとすれば、平成2年は教員1人あたり生徒数約107人に対し、現在は約130人で約1.5倍である。

 

つまり、教員数全体で見れば人数は「一定に調整」されている。しかし45歳以上に比較して、それ未満の「若手」の人数が少なく、それが教員の負担増につながっているのではないか?と推定される。

 

数値に表れない他の要因の想定

教員の人数については、冒頭で紹介した記事の後半で、以下のように論じられている。

 

また背景には教員の人数不足がある。教員の数は、子供の数や学級数によって決まるが、子供の数の減少に伴い教員の数も減り、単独で顧問を担当したり、場合によっては、一人の教員が複数の部活の顧問を担当し、負担が大きくなっているケースもあるという。

原文まま

 

これは教員の労働組合である「日本教職員組合」によるものだ。

私は彼らが「教員数不足」だけを訴えるのみでは、改善が進まない危険性があるのではないかと考えている。と言うのも、上記で示したデータでは「教員数は近年10年で減少していない」からだ。

労働組合の訴えに対し、経営側(文科省)は絶対に上記のデータを参照する。その場合「人数は減少していない」と判断することは容易に想定される。

しかし組合側の「教員数不足」と言う訴えがデタラメとは思えない。

現場では明らかに「人数不足」なのだと考えられる。

教員人数は減少していないのに、現場の体感では「人数不足」

そのカラクリは「人員構成」にあると言える。つまり、全教員数のうち半分以上を占める45歳以上世代が、実質的な「現場の仕事」に従事していないのではないか?

部活動の顧問以外でも、現場の仕事は45歳未満の若手~中堅教員が主体となっているのが原因なのではないかと考えられる。

彼ら「管理職世代」が意地悪でワザとそうしている訳ではないだろう。おそらく、現状のイビツな年齢構成に気付かず、これまで行われてきた「慣例」に従っているだけなのではないのか?

「45歳以上は管理側にまわり、45歳未満が現場実行する」と言う慣例に。(※あくまで上記データに基づいて記述しています。実際の管理職年齢とは一致しない可能性があります)

しかし現状では、「現場実行世代」の人数は減少しているのだ。教員全体の人数は変わらないが、管理側の人数が多く、現場サイドの人数が少ないと言う、組織としてはイビツな構造になっていると言えるのではないか?

また以前に比べ、いじめ問題に対する処置やモンスターペアレントへの対処など、「現場実行世代」への負担が、以前と比較して多くなったことも「教員のブラック労働」を助長していると考えられる。

 

まとめ

以上のように、教員のブラック労働問題の主たる原因は「若手不足」にあると考えられる。45歳以上の管理職世代が、それ未満の現場実行世代よりも人数が多いにも関わらず、これまでの慣例によって若手~中堅世代に現場実行が任され続けていることが元凶なのではないのか?

現状では教員のブラック労働が訴えられていても、その原因については「人数不足」のみに帰結している。しかし実態としては教員の全体人数は減少していないので、文科省は動きづらいだろうし、世論の動きも鈍くなるのではないか。

上記のデータを見る限り、現在の教員のブラック労働問題の原因は「若手不足」なのであろう。

単なる「教員の全体人数」ではなく、年齢構成に基づいた「現役世代の人数」を論じることで、問題の本質が浮き彫りになり、改善につながると考えられる。

 

 

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