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どうなる介護業界?? 外国人の就労を全面解禁へ 

介護福祉士と言えば、主に養護老人ホームで働く方々を思い浮かべることと思います。お年寄りをはじめとした「自らの力で日常生活を過ごすことが困難な人」の介護を行うのが主な仕事です。

世間一般では「専門知識・技能が必要で、なおかつ肉体的・精神的にも負担のある仕事でありながら、給料が安い仕事」として認識されているのではないでしょうか?そればかりか、労働基準法が遵守されていない企業も多いらしく、労使トラブルも散見されます。

そのような介護業界ですが、以下の記事によれば「外国人の就労を解禁」する法律が成立したようです。

 

www.huffingtonpost.jp

 

上記記事の表題である「グローバル化」の耳障りは良いですが、現在介護職に就いている人にとって見れば、死活問題になりかねない出来事になると思います。

 

介護福祉士とは?

では、改めて「介護福祉士」ってどんな職業なのでしょうか?イヤ、正確には職業と言うよりは「国家資格」です。「社会福祉士及び介護福祉士法」によって規定された国家資格であり、以下のように定義されています。

 

介護福祉士の名称を用いて、専門的知識及び技術をもって、身体上又は精神上の障害があることにより日常生活を営むのに支障がある者につき心身の状況に応じた介護を行い、並びにその者及びその介護者に対して介護に関する指導を行うこと*1

 

専門知識・技術を要する資格ですし、障害を有する人々の介護や、介護者を指導すると言う、重要な職務です。一時期、堀江貴文氏が「介護は誰にでもできる仕事・・」と発言したことが話題になりましたが、かと言って「明日から介護士になろう」と思ってなれる職業でもありません。

国が認める専門知識・専門技能を有する介護福祉士ですが、世の中のイメージでは「大変な割には給料が安い仕事」と認知されています。では実際に、どの程度の給料なのでしょうか?

以下サイトによれば、介護福祉士の給料は年収250~400万円が一般的なようです。

介護福祉士の給料・年収 | 介護福祉士の仕事、なるには、給料、資格 | 職業情報サイトCareer Garden

税込みで上記の年収なので、月の手取りでは15~17万円前後と言うことですので、決して高い給料とは言えません。看護師の平均年収519万円*2を考えても、「安い」と言う印象を受けます。

 

 

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介護福祉士の給料は何故安いのか?

「介護」と言う職業を考えた場合、その仕事がどのような利益を生み出すかを考えてみます。

分かりやすい事例で考えれば、例えばとある工場でつくられた製品が世界中で高値で買い取られるようであれば、その製品生産に関わる仕事は膨大な利益を得ることになります。そして、その利益の一部が生産に関わっている労働者の給料になります。単純に考えれば、「売れる商品」を生産する工場に勤める労働者の給料は高くなるでしょう。

では、介護はどうでしょうか?

お年寄りが通常の日常生活を送るために介護をしても、その行為が利益を生み出すわけではありませんよね。これは何も、お年寄りに限った事ではなく、私のような中年男性でも同じことです。中年男性が単に「日常生活を送る」ことそのものは、何かを生み出すわけではありません。

例えば「売れっ子漫画家」がマンガを描く時間を確保するために家政婦さんを雇い、それによってマンガをもう1本描けるようになるのであれば、家政婦さんが生み出す利益は「マンガ1本分」に相当すると考えられます。しかしその漫画家が病気になって描けなくなり、引き続きその家政婦を雇ったとしても、社会全体の「利益」を考えればマイナスになってしまいます。漫画家は新たに何かを生み出している訳ではなく、家政婦の給料は貯金から賄っているわけですから。

この様に経済原理から考えると利益を生み出しにくい介護の分野は、その点では医療分野と似ています。医療は国民の健康を守ることで、国の経済力を間接的に維持・強化する役割を担うものと考えることができます。介護の場合も「親の介護のために働くことができなくなる人を減らす」と言う意味で、間接的に国の発展に寄与するものです。ですので、純粋な経済の競争原理では成り立たず、国や自治体による公共的な制度と資金が関わっています。医療費には「保険料+公費(税金)」が投入されているように、介護にも「保険料(介護保険)+公費(税金)」が投入されています。

にも関わらず、医療関係の職業と介護職で給料に差がある理由として、以下の点があげられています。詳細は以下URLを参照ください。

介護職員の給料はなぜ安い?介護報酬引き下げ、事業者の中間搾取…給料アップを阻む介護業界の現状とは|みんなの介護ニュース

 

・経営者の中間搾取が多い可能性

介護保険制度に定められている「介護報酬」が安い

・以前、介護は医療の一部だったが、それによって膨らむ医療費を減らす目的で「医療から切り離した」と言う側面がある。つまり国は「介護に金を使いたくない」が本音?

 

外国人労働者の参入でますます給料は安くなる!

冒頭でお話しした法律によって、外国人が介護福祉士として 就労することを解禁するだけでなく、外国人技能実習生を受け入れることも可能になっています。つまり、慢性的な人手不足であった介護職に多くの外国人が参入してくることになります。

今後ますます高齢者人口が増えることを考慮すれば、人手不足が解消されることそのものは良いことであろうと思います。しかし私には「介護に関する様々な問題が先送りされたのではないか?」と言う懸念があります。

上述のように、介護職は人手不足であり、かつ専門知識・技能が必要な割には給料が安いと言う矛盾を抱えています。これは介護制度が持つ問題点や、経営サイドの努力不足が背景にあると考えられます。しかしそれらの問題解決を怠り、謂わば「人手不足解消の手っ取り早い方法」として、外国人労働者の受け入れを選択したように思えてなりません。そして「介護にはお金を使いたくない」と言う国の本音が透けて見えるようです。

もちろん、人手不足は解消されるでしょうが、それによって介護職員の給与水準はますます低下することでしょう。またただでさえ労働者に対する扱いに問題を抱えていた業界なだけに、ますます労働者にとって過酷な職業になる可能性があります。

介護職に限らず、現代日本は労働者に対して非常に厳しい国になっています。このことは最近、国連から指摘を受けている事でも分かります。特に外国人技能実習生に対する扱いについては「現代の奴隷制度」と揶揄されているなど、日本の労働現場に対しては、そろそろ諸外国から警戒されつつあるようです。

そのような中で外国人労働者を受け入れたとしても、将来的には外国人も介護職に就く人がいなくなる懸念もあります。

外国人受け入れから数年~十数年は人手不足が解消したとしても、業界そのものが変わらなければ、その先は結局は人手不足に陥るのではないか?と懸念されます。

その様な事態になる前に、介護業界を産業として成熟させていくことが先決なのではないでしょうか?

我々も決して他人事ではありません。40年後、自分が要介護者になった時に「介護業界の機能不全によって満足な介護が受けられない」と言う事態にならないよう、今のうちに自分ができることは何か?良く考えていきたいと思います。

 

 

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