トラック運送業界に関して、前編からの続きです。
人手不足対策はそれで良いのか?
過当競争による低価格競争の結果、トラック運送業界は深刻な人手不足に陥っています。そのような業界の現状に対し、一応は国も対策を考えているようです。
現在、中型免許の取得には「普通免許の取得(18歳以上)から2年を経過」という条件があるが、道路交通法を改正し、18歳から取得できる「準中型免許」を新設。主に高卒者の確保につなげる考えで、2017年3月に施行予定だ。
さらに、トラックの全長規制を「最大25メートル」に緩和し、荷台を連結して一度に運べる荷物を増やせるようにする方針も打ち出した。
原文まま
確かに、トラックを運転できる年齢を引き下げることで、人員増に繋がる可能性はあります。ただし根本的な部分、すなわち「劣悪な労働環境」が改善されない限りは、せっかく入った若者が離職する可能性が考えられます。
またネット社会を甘く見てはいけません。特に若い世代はSNSを用いたコミュニケーションに長けていることから「劣悪な労働環境」と言う情報はあっという間に拡散し、さらなる人手不足を産むと予想されます。
一方、トラック運送業界自身も対策は練っているようです。
女性の進出への期待は大きい。女性運転手を「トラガール」と銘打ってPRし、積極的な採用を促すとともに、荷役の負担を減らすなど、働きやすい環境づくりを呼びかけている。 原文まま
女性の登用も、確かに人材不足解消のカギの1つにはなるかも知れません。
しかし、もともと慣例的に「男性の仕事」とされてきた業界に女性を登用する場合は、よりきめ細やかな施策が必要になろうかと思います。と言うのも、建設関連業界の知人から、こんな話を聞いたことがあるのです。
建設関連業界は、もともと「男の仕事」と言う業界だったけど、最近では女性も入社するようになってきた。大部分の女性社員は「男の世界」に飛び込んだことは承知していて、肉体労働でも率先して引き受けてくれる。
しかし一部の女性社員は「か弱い女性」をアピールして上司に媚び、それに騙されるオジサンに守られる。結果、男性社員にばかり負担が集中する。もちろんデスクワークが非常に優秀ならまだしょうがないとも思うが、そんな人間に限って、そうでもなかったりするから困ったものだ。
知人Aより
つまり、男性側にも未だに男女差別者がいるのと同様に、女性側にも「力仕事は男性がやるもの」と 思っている人間が一部とは言え、存在するようです。
確かに一般的な平均値で考えれば、男性の方が筋力で勝るでしょう。しかし男性にだって筋力が弱くて力仕事が苦手な人間はいます。それでも「肉体労働がある業界」に入れば、我慢して仕事をしてきた歴史があります(※それが良いか悪いかは別として)。
その中に「私は女だから力仕事はできない」と言う社員が入ってきたら、無用な軋轢 を生むだけだと想像できます。
「トラガール」などと言うような薄っぺらで表面上のピーアールをするだけでなく、男女の区別なく「身体への負担が少ない業務形態」の構築が必要なのではないでしょうか?
女性を採用することで、肉体的な負担が男性社員にのみ集中するようでは、男性社員の新たな離職を産むだけだと思います。
やはり、まずは労働環境の整備に尽きるのではないでしょうか?
本当に現状の経営努力は十分なのか?
不思議に思うのですが、こうやって報道されるほどの「危機的状況」なのに、何故、倒産などの「業界再編」が起こらないのでしょうか?(※もちろん倒産している会社もあると思いますが「対価格競争・労働環境改善がなされるレベルではない」と言う意味です。)
やはり日本人って我慢強いので、低賃金で劣悪な労働環境であっても「会社のために」と働き続けるのでしょうか?もしくは、何やかんや言いながらも、実は経営側には「まだ余裕がある」のでしょうか?
佐藤高司交通・環境部長は「景気が回復しても、運転手の給与も労働時間も改善できない。業界の努力だけではもう無理だ」とため息をつく。
原文まま
これ、本当にそうなのでしょうか?本当にありとあらゆる経営努力を行ったのでしょうか?
私は素人ながらも、ある意味で運送業界は1つのターニングポイントを迎えているのではないかと思うのです。その理由は、これです。
一方で、インターネット通販が拡大し、「少量・多品種・多頻度」の小口輸送は増え続けている。ますます人手不足は深刻となり、この国交省調査では、事業所の68・8%が運転手不足を訴えている。
原文まま
インターネット通販と言う、これまでになかった「新たな需要」が生まれているのです。これは逆にチャンスなのではないでしょうか?ネットオークションの普及で個人間のやりとりも増えていますし、「小口輸送に特化したシステム」を構築すれば、新たなビジネスチャンスが生まれそうです。
素人考えですが、例えば「都市間の輸送はトラック(社員)」、「都市内の輸送は自転車(アルバイト)」と言ったような分業制を構築するとか。
もしくは「リレー形式」や「ピストン形式」といった様な、より連携を強化した輸送形態にして機動性を向上させるとか。
また逆転の発想で「小口輸送で負担が増す」のであれば、「着日が遅くても可能な顧客には割引する」と言ったサービスを提供して「一括輸送」しやすい環境をつくるとか。
色々とあるような気がします。(※あくまで素人考えです)
まとめ
物価の上昇など、私たちの生活に直結する物流業界。その主力であるトラック運送業界が、過当競争とそれに伴う深刻な人手不足を一因として非常に危機的な状況になっています。
私たちの「安くて便利」のしわ寄せが、トラックドライバーの過重労働として表れていると言っても過言ではないでしょう。注文したものが明日にでも届けば非常に便利ですが、それは「トラックドライバーの努力の結晶」であることを忘れてはなりません。
ツイッターでは実際に、この様な声もあります。
社長の車のグレードは下がりません(社員に残業代は払わないのに)
拡散希望
— AYAKO (@ddfwr1) 2016年8月17日
ブラック企業・伊奈運輸は残業代を払え!
車両事故&商品破損による弁償金、
一生懸命働いて稼いだ給料までも違法な天引き、残業代未払い
その上、横暴な態度 何様のつもりだ!
労働者は、奴隷じゃないんだぞ!!""
やはりブラック企業が横行しているようです。この事実に我々消費者も、もっと関心を持たなければなりません。
また以下の最後の一文も気になります。
順天堂大学の川喜多喬・特任教授(キャリア・人材開発論)は「大災害で物流が止まると、人々はトラック輸送のありがたみを実感するが、日頃は当然のことと 考え、高校で運送の仕事を教わる機会もない。運転手の待遇の改善に加え、『物を運ぶ仕事』の大切さに理解を広めていくことが必要だ」と話す。
原文まま
確かに「物を運ぶ仕事」は大切ですし、他にも大切な仕事はこの世に沢山あります。
しかし「大切な仕事だから我慢してやりましょう」と言う「やりがい搾取」に繋がる偽善的な言葉にしか聞こえないのは私だけでしょうか?
何よりも大切なのは労働環境の改善以外にはあり得ません!
私たちは「安くて早くて便利」と引き換えに「ブラック・スパイラル」を産んでしまっていることに気付かなければなりません。
よろしければ、こちらもお読みください。
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