繁忙期の時間外労働上限が「1ヶ月100時間未満」に・・ まずは取り締まりの強化を!
かねてから議論されていた時間外労働の上限規制。
働き方改革実現会議において、繁忙期の時間外労働上限を「1ヶ月100時間未満」とすることで合意されたようです。
上限規制の内容について
働き方改革実現会議で話し合われた「上限規制」を要約すると以下の通りとなります。
- 年間の上限「720時間」が大前提
- 2~6か月の月平均の上限を80時間まで
- 月100時間未満
- 月45時間を超える時間外労働は年間6か月まで
色々な条件が絡み合ってるので、いまいちピンと来ません。
そこで上記の上限設定で、どうやったら最大に働かせられるか?
をシミュレーションしてみました。
あれこれ考えてみましたが、「2ヶ月平均80時間」の縛りが結構強いです。
報道ではどうしても「1ヶ月上限100時間未満」が大きく取り上げられていますが
たとえ1ヶ月に99時間残業したとしても「2ヶ月平均80時間」の縛りがあるので
次の月は「61時間未満」になります。
もちろん、99時間/1ヶ月そのものが過労死ラインギリギリですし、
2ヶ月で99時間、61時間と働けば、健康に及ぼすリスクは大きいと思います。
一部の政治家の間では「画期的」と言われる上限規制ですが
上のように考えただけでも、なかなかに過酷です。
では、最大だとどうなるか?
ちなみに「2ヶ月平均80時間」の縛りがあるので、1ヶ月でも61時間以上になれば
1ヶ月上限の100時間未満(≒99時間)は働かされません。
ですので、まず最初に99時間だったとしましょう。
- 1月:99時間
- 2月:61時間・・・2ヶ月平均80時間
では、3月はまた99時間が可能かと言えば、それはありません。
なぜなら「3か月平均80時間」があるから。そして4~6か月平均も80時間なので
3月以降は、80時間が上限になります。つまり、
- 1月:99時間
- 2月:61時間・・・2ヶ月平均80時間
- 3月:80時間・・・3ヶ月平均80時間
- 4月:80時間・・・4ヶ月平均80時間
- 5月:80時間・・・5ヶ月平均80時間
- 6月:80時間・・・6ヶ月平均80時間
そしてこの時点で、もう1つの縛り「月45時間超えは6か月まで」が適用されます。
そうなると、7~11月を連続で44時間で1~11月合計700時間になり、12月は20時間が上限になります。つまり、以下のようになります。
- 1月:99時間
- 2月:61時間・・・2ヶ月平均80時間
- 3月:80時間・・・3ヶ月平均80時間
- 4月:80時間・・・4ヶ月平均80時間
- 5月:80時間・・・5ヶ月平均80時間
- 6月:80時間・・・6ヶ月平均80時間
- 7月:44時間
- 8月:44時間
- 9月:44時間
- 10月:44時間
- 11月:44時間
- 12月:20時間・・・1年合計720時間
この残業時間を考えると、いかに「過労死ライン*1ギリギリ」かが分かります。
上限規制の前に取り締まり強化が必要
この「残業上限規制」の議論に関する報道を見聞きするにつけ、あたかも残業時間に上限が無いかのような印象を受けてしまっている人も多いように感じます。
しかしそれは全くの間違いで、そもそも労働基準法では「1日8時間以上の労働を認めていない」と言う事実があります。
もともと労基法では「残業は全くできない」のが基本です。
そこで出てくるのが「36協定」であり、「会社側と労働組合が協定を結ぶ」ことによって、はじめて残業が可能になります。それでも本来は青天井ではなく、無制限の残業を可能にするためには「特別条件付き36協定」が必要になります。
つまり、本来は会社側がいくら無限に残業をさせたくても、労働組合が認めなければ、36協定は結べません。つまり、もともと「青天井の残業をさせる」ことそのものが、企業にとってハードルが高いことになります。
しかし現在では労働組合の組織率が低く、中小~零細企業では労働組合そのものが存在しない場合が多いと予想されます。その場合は最悪、会社側が労働組合をつくり(表向きではなく)、経営側の思い通りにして36協定を締結していると考えられます*2。
またもっと悪いケースでは、そもそも36協定を締結しておらず、堂々と違法な長時間労働をさせているケース。中小~零細企業では、これが実は1番多いのではないかと、私は疑っています。(※大企業は表向きでも御用組合をつくって対処していると考えられます)
また根本的な問題として、「サービス残業」は無条件で違法です。上限なんて関係ありません。にも関わらず、世間一般的に「当たり前」として横行していることそのものが、本来ではありえません。
つまり、もともとが残業時間の上限云々の前に、現状で取り締まりが徹底されさえすれば、長時間労働が横行することはないハズなのです。
おわりに
労働問題は、個人の健康問題にとどまらず、国の生産性の問題にもかかわる重要事項です。最近では「上限規制」ばかりが独り歩きしている感がありますが、そもそも「徹底した取り締まり」があれば、現行の法律でも問題にはなるものではありません。
その様に考えると、今回の「上限設定」は、あくまで「取り締まりの厳格化」が前提条件にならねばならないと考えています。そうでなければ、逆に、これまでは本来違法だったはずの残業が「上記上限設定以内であれば無条件で合法」と言うことになります。つまり、「全体的にハードルが下がった」と言う事実だけが残ってしまいます。
本来は「上限」も「36協定」も「過労死ライン」も関係ない、「サービス残業」が横行していることが大きな問題です。
とにもかくにも、「取り締まりの強化」を切に望みます。これに尽きます。