スノーボールアース ~カンブリア爆発の謎と全球凍結仮説とは?~
スノーボールアース仮説と言う言葉を御存じでしょうか?約15年前に提唱された説であり、地質学の世界ではプレートテクトニクス以来の大きなパラダイムシフトだと言われています。その主要な提唱者はハーバード大学のポール・ホフマン教授でした。
ところで「カンブリア爆発」って聞いたことありますか?
カンブリア紀とは、長い地球の歴史の中でも約5億5千万年前から約4億8千万年前までの期間を言います。実は地球の歴史は、このカンブリア紀を境にして大きな変化を遂げるのです。何せ、カンブリア紀より以前を、まとめて「先カンブリア時代」と呼んでしまうくらいですから。では何が違うのかと言いますと、ズバリ「化石」です。カンブリア紀では多くの生物の化石が産出する一方で、その前では全く化石が出てきません。地球の歴史が46億年と言われる中で、約40億年もの長い期間は化石がないのです。いや、正確に言うと「目に見える生物=多細胞生物」の化石が無いのです。
先カンブリア時代の後半の約20億年間は「細菌類=単細胞生物」の時代でしたので、科学技術が発達して、やっと顕微鏡で化石が発見されました。そして先カンブリア時代の終わりからカンブリア紀にかけて、突如として多細胞生物が出現します。しかもほぼ一気に、沢山の種類の生物が発生し、現存の動物門のほぼ全てがこの時代に出現したと言われています。
その様なことから「カンブリア爆発」と言う言葉が生まれました。まさに地球上の生命進化が一気に花開いた瞬間です。
先カンブリア時代の謎に魅了された男
地球生命の進化が一気に花開いたカンブリア時代。その謎のカギは「それ以前の先カンブリア時代にある」そう考えた人がいました。名をポール・ホフマン。彼は生粋のフィールド・ジオロジスト(野外調査専門の地質学者)であり、彼が追い求める謎を解くための証拠を探すため、世界中のありとあらゆる場所を巡ります。古い地層はそうそう、色々なところにある訳ではありません。世界中に散らばっているピースを繋ぎ合わせるために、彼はアフリカ大陸南西部のナミビア、北極圏、オーストラリア等、世界中を駆け回ります。そのバイタリティーと根気強さには本当に敬服します。
彼はもともと、大陸移動の謎を探求している地質学者でした。その目的を果たすために世界中を巡り、先カンブリア時代の地層を研究するうちに、ある1つの奇妙な事実に気付きます。海底に静かに降り積もった細かい砂や泥でつくられた「シルト岩」。その中に不規則に含まれる多種多様な岩塊。それは一般的に、氷河によってつくられる地層だと言われています。氷河に乗っかっていた大小様々な岩々が、氷河とともに海上まで運ばれ、氷河が融けると岩々はそのまま海底に沈み、海底に溜まっているシルトに落下して取り込まれる。この「ドロップ・ストーン」と呼ばれる特徴的な地層が、世界中のあらゆる「先カンブリア紀末期の地層」に含まれることに気付いたのです。現在の地球を想像しても分かるように、氷河は北極圏や南極圏などの限られた場所にしか見られません。しかしどうも、先カンブリア時代末期に限っては、世界中のあらゆる場所に「ドロップ・ストーン」が見られる。
「ここに大きな謎が隠されている。」それがスノーボールアース仮説への大きな第一歩だったのです。
そしてスノーボールアース仮説へ
世界中に散らばる「先カンブリア時代末期」の地層を調べると、必ず見つかる「ドロップ・ストーン」の謎。これが全球凍結仮説すなわち「スノーボールアース仮説」の強力な証拠の1つとなりました。
先カンブリア時代の末期に、地球の全域が氷に覆われていた。
この突拍子もない説には、1つの大きな「欠陥」がありました。スノーボールアースが何故形成されたのか?その原因は「大陸移動」に求めることができます。陸地は海に比べて熱しやすく冷めやすい。この性質から、極地(北極・南極)に大陸が集まると、大陸がどんどん冷えていき、周囲に氷河が形成されて行きます。極地から陸地伝いに広がった氷河は、白いために太陽光を良く反射し、そのため極地以外の場所も寒冷化してしまいます。氷河はさらに広がり、広がった先を寒冷化させ、また氷河が広まる。これを繰り返すうちに、地球全土が氷に覆われます。
しかし逆に、全域をすっかり氷に覆われた地球は、どこもかしこも太陽の光を反射してしまい、そのエネルギーを吸収することはできません。ですので、理論上は「永久に凍り付いたまま」になってしまうのです。ですが今の地球はそうではありません。
スノーボールアース仮説の大きな弱点は、まさにそこにありました。
何が全球凍結時代を終わらせたのか?
スノーボールアース仮説の完成。それは原因だけでなく、解消された原因究明を待つ必要がありました。
スノーボールアースが解消された原因は何なのか? ぜひ、この本を手に取って読んでみて下さい。この本の面白いところは、その説を提唱した本人によるものではなく、第三者のサイエンスライター的な人が書いたという点です。スノーボールアース仮説が世に出されるまでには、冒頭で紹介したポール・ホフマン博士の他にも、様々な科学者が登場します。全体的に物語風に描かれていますので、地質学に詳しくない一般の方々でも十分に楽しく読み進めることができると思います。
また日本に比べて欧米では「地質学者」は一般市民にとって尊敬の対象です(※日本では悲しいくらいに認知されていませんが)。この本を読んでいると、やはり地質学者ってリスペクトされているのだな~と感じました。
現存の動物門のほぼ全てが一気に生まれた「カンブリア爆発」。その中には当然、我々人類の遠い祖先もいます。そのカンブリア爆発の原動力となったと言われている「スノーボールアース」その仮説が生まれるまでのダイナミックな物語を、是非とも堪能して欲しいものです。
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