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仕事とか科学とか

労働問題や面白い科学の話題について書き綴ります

航空会社の医師登録制度に見る日本人のブラックなメンタリティー

非常に興味深い記事を読みました。

bylines.news.yahoo.co.jp

 

 

医者は何故、名乗り出ないのか?

これは、読んでいて非常に納得できました。

上の記事の筆者(医師)が書いている理由は以下の通りです。

①設備がなく、十分な診断ができない(原因がわからない)。

②原因が分かったとしても、設備も薬も無い中、治療できない可能性が高い。

③1人で対応できることは限られる。

このように、例え自分が名乗り出たとしても、患者を助けられる可能性は限りなくゼロに近い(致死的な状況の場合)。また助けられるとしても、その病状は非常に限られるとのことです。

一方で、名乗り出て治療にあたったがために「訴訟のリスク」が発生します。考えたくはありませんが、せっかく善意で名乗り出ても、患者さんが亡くなった後に遺族から「なぜ助けられなかった?」と訴えられる可能性が考えられるのです。

飛行機に乗っている状況で、医者は「勤務時間外」です。にも関わらず、設備も薬剤もない不利な戦いと知りつつ善意で名乗り出た割には、あまりにもリスクが大きすぎるのです。それでも、この筆者は名乗り出た経験があるそうです。心から敬服いたします。

 

ANAJALの「飛行機の医師登録制度」の問題点

この制度は、あくまでもANAJALそれぞれの独自の制度であり、それぞれの会社に対し、医師が個人の判断で善意で登録するものです。登録した医師が飛行機に乗った場合、航空会社は「この便に医師がいる」ことを自動で知ることができます。

それによって、もし体調が急変した客が出たとしても、客室乗務員が静かに医師の席へ行き、「お願いします」の一言で済むことになります。「お医者さんはいらっしゃいませんか?」のドクターコールによって他の客に無用な不安感を与えないのがメリットなのだそうです。

問題点①:責任の所在が不明確

ANAJALともに「故意、重過失の場合を除き、弊社が主体で対応する」というものです(*1*2)。

筆者によれば、設備や環境が十分ではない機内における医療行為に対し、何をもって「故意、重過失」と判断するか?について、今までに事例が無い以上、非常に不安だそうです。当たり前ですよね。 

問題点②:登録時の「専門とする科」の選択肢が不十分 

この筆者はANAの方に登録したそうですが、その登録の際に記入する「専門とする科」に自分の専門である「外科医」が選択肢になく、その他の項目も医師から見たら「?」となるような選択肢が多数あったとのことです。そして「科」は必ずしも医師の専門スキルを表している訳ではないため、「専門スキル」を選択できるようにすべきと提案しています。

このことから、医師登録制度の導入の際に、専門家(医師)の知見を取り入れなかったのでは?と想像されます。この制度の導入によって人命救助がよりスムーズに行われる可能性が高く、システム設計を間違わなければ、かなり有益な制度になるはずです。にもかかわらず、その主力を担う医師の意見をあらかじめ取り入れないなんて、どこか一方的で、「失礼だな」と言う印象を受けてしまいます。

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問題点③:機内の医療設備が不十分 

飛行機内には「救急バッグ」は常備されているようですが「医師登録制度」を導入したからと言って特別に医療設備を増設することは無いようです。これに対し、記事の筆者は検査のための「超音波機」の設置を提案しています。

せっかく医師の力を積極的に活用する制度をつくるのであれば、医師の意見を収集して「最低限必要な医療設備」を用意しても良さそうなものです。このことからも、この制度が「医者の善意にのみ頼った制度」だと感じてしまいます。

問題点④:登録するのは「医師」だけ

患者の容体が悪く、緊急事態で救急救命が必要な場合は特に、人手が必要になるとのことです。考えてみれば当然ですよね。医師が診断や応急処置を講じている最中に、同時並行で点滴の準備をする看護士が必要ですし、救急救命士の存在も大きいそうです。

そこで筆者は「看護師、救急救命士の登録制度」も提案しています。

これについても、制度設計に際して事前に医療関係者にヒアリングしていれば、事前に意見が出たのではないかと思えてなりません。

問題点⑤:報酬に対する明言が無い

これが一番の問題だと思います。 不測の事態に際しての「お医者さんはいませんか?」とは違い、「医師登録制度」は明らかに航空会社側からの能動的なものです。これによって、登録した医師には一定の医療行為を課すことになる訳ですから、それに対する報酬に対して明言しないという行為は、誠意に欠けると感じます。

これについては、以下に詳述したいと思います。

 

医師にボランティアを求めるブラックなメンタリティー 

「医師登録制度」の報酬に関して 、この記事を読んで非常に驚きました。

筆者に聞こえてくる情報として、JALは空港のsakuraラウンジが使えるようになるそうです。一方ANAは特に情報が入ってきていません。ちなみに、 ルフトハンザ航空では5,000マイルの付与と、次回使える50ユーロ分のチケットが医師登録でプレゼントされるとホームページに公開しています

原文まま

ルフトハンザ航空(ドイツ)の報酬が妥当かどうかは分かりませんが、上記以外にも色々な特典があるようですし、少なくともJALよりは待遇は良いですよね。ちなみに何も情報が無いANAに対して、著者が電話でインタビューしたそうです。

Q. 医師が機内で診療を行った際、報酬はありますか?

A. 「お礼状など常識の範囲内での対応」とさせていただいております。

Q. なぜ報酬を発表しないのですか?

A. あくまで医師のご厚意、ボランティアとしてのご登録を期待しお願いしております。報酬があるからということでのご登録のお願いという趣旨ではないため、公表はしておりません。

原文まま

 

ボランティアですか~。ボランティアね~。

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私は正直、最近の日本のボランティアを過剰に求めているかのような風潮が好きではありません。もちろん、ボランティア精神は素晴らしいですし、東日本大震災の時にボランティアに駆け付けて下さった方々には感謝しています。

しかしボランティアはあくまで「来てもらえて助かった」と、その善意に感謝するものであって、最初から期待するものであってはならないと思うのです。ボランティアはあくまで個人の自発的行動でなくてはなりません。

何故なら、基本的に仕事と言うものは、その労働に対して然るべき報酬が支払われて成り立つものだからです。世の中、ボランティアだけで成り立つか?と言われれば、10人中10人が「ノー」と答えますよね?

この世の中は、ありとあらゆる「プロの仕事」で成り立っています。プロは一定以上の勉強、訓練、経験を積んでいるから「その道のプロ」なのです。ですので、その「積み重ねたもの」に敬意を表する上でも、報酬を支払う義務がありますし、それで世の中は成り立っています。

一方、ボランティアの場合は「善意1つあれば、誰にでもできること」をやることだと、私は思います。そしてあくまで「自発的」であることが第一条件です。強制になれば、それはボランティアではなく「奴隷」ですからね。

ちなみにJALANAは、この「医師登録制度」によって企業の社会貢献活動としてイメージアップに繋がるでしょうから、メリットがあります。それなのに「ボランティア」を要求するのですね。しかも自分たちの懐は痛めずに、他人のフンドシで相撲を取るのにも関わらずに!

「医師」と言ったら、世の中を代表するような「プロフェッショナル」です。そのプロに対し、自分たちが勝手につくった制度に「ボランティアでやってくれ」は、あまりにも図々しいと思いませんか?JALANAの様な大企業が、こんな不見識なことをやって良いのでしょうか?どうも、東日本大震災以降は特に、「当然のようにボランティアをあてにする世の中」になってしまったように思えてなりません。

きっとブラックジャックなら「冗談じゃない!」と激怒するハズ。

こう言うとき、「人命がかかっているのに報酬なんて要求するのか?」と言う人は沢山いるでしょう。でも考えてみて下さい。金で命が助かるなら、こんなに安いものはありません。医者だって人間です。霞を食って生きてる訳ではありません。命を助ける仕事とは、かなりな大仕事です。相応の仕事には、相応の対価がつきものです。

もし医者の人命救助に対する報酬について「どうしても納得できない」と言う人がいるなら、是非「ブラックジャック」を読んでみて欲しいと思います。

ボランティアはあくまで「自発的行動」でなくてはなりません。ですので「医師の側から発した制度」であれば、ボランティアでも構わないと思います。 

しかし今回取り上げた「医師登録制度」は航空会社がつくった制度です。航空会社単独では成しえる訳がないにも関わらず、医師の意見抜きで勝手につくったであろう制度なのに、医師にボランティアを要求する。その背後には、ブラックなメンタリティーが透けて見えるようです。

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まとめ

この「医師登録制度」は適切に制度設計がなされれば、とても素晴らしい制度になると思います。医師の意見を取り入れて設備を整え、医師だけでなく看護師・救命救急士の登録制度もつくり、責任の所在と報酬について明確化すれば、安心して登録する善意にあふれた医療関係者は、沢山いらっしゃると思います。

やはり残念なのは、この制度が現状では、どうしても「思い付きで始めた、他人のフンドシで楽して相撲を取る」に見えてしまうことです。

そして私は記事中の、この一説が胸に響きました。

ただでさえ医師の多くは過労死レベルの超過勤務をしフラフラの状態で飛行機に乗っているのですから、治療に当たる人が一人でも多い方が良いのは間違いありません。

原文まま

そうなのです。容易に想像できますよね?

お医者さんは死ぬほど忙しい

ただでさえブラック労働の中、善意と使命感で激務をこなしているお医者さんが大多数でしょう。その様な方々を安易にボランティアに巻き込もうとするなんて、ブラックなメンタリティー以外の何物でもありません。

JALANAには制度の見直しをお願いしたいものです。

 

いずれ「ブラックジャックのプロ意識」について記事にしてみたいと思っています。

 

よろしければ、こちらもお読みください。

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