「働き方改革」を注意深く監視しよう!-前編- 経営者が期待する「改革」なら危険かも知れない
以下の記事を読んで、「働き方改革」については慎重に見ていかねばならないと感じた。
(※日経ID(無料)を持っていないと読めない記事 )
社長100人アンケート
日本経済新聞社が社長100人にアンケートした結果を公表した。日経新聞では定期的に同様なアンケートをとっているようである。
国内主要企業の社長(会長、頭取などを含む)を対象に、3カ月に1度、アンケートを実施している。今回の調査期間は8月25日~9月12日。147社が回答した。
原文まま
今回は、政府の「働き方改革」についてがメインテーマ。記事ではアンケート結果の要約として、以下のように述べている。
「社長100人アンケート」で、多くの経営トップが「裁量労働制の拡大」「脱時間給導入」といった施策の推進を政府に期待していることが分かった。官民が連携し生産性を向上させることが競争力強化に不可欠との危機感が浮き彫りになっている。
原文まま
生産性の向上が競争力強化に不可欠との見解は私も賛成する。ただし経営トップが政府に推進を期待する施策が「裁量労働制の拡大」「脱時間給導入」と聞いて、非常に危ない雰囲気を感じる。グラフを見てみよう。
裁量労働制の拡大について
裁量労働制とは、その業務の性質に依存するもので、主に一定の成果をあげるために「時間に依存しない」ような職種に限られている。分かりやすい例で言えば「クリエイティブ」な仕事だろう。
例えば衣服等のデザインを考案する仕事の場合、アイデアが具現化するまでの時間は条件によってマチマチであろうとは、素人でも容易に想像できる。その様な仕事については、企業に対して「時間」に基づいて給料を支払うのは酷だと言う考えも理解できる。
ただ日本の場合は、「みなし労働制」になってしまっている事が懸念材料である。「労使であらかじめ定めた時間働いたものとみなされる*2」と言う制度であるため、過剰な業務を負わされてしまったときに、労働者に不利に働いてしまう危険性があるのだ。
例えば、タイトな工期設定の高度な案件を数本も任されてしまった場合、当然、給料以上の激務を強いられることになる。日本の場合、ただでさえ労使間で対等な立場が築かれていないことが多いため、弱い立場の労働者が泣き寝入りすることになりかねない。
現在、日本の裁量労働制は「対象業務の範囲が狭く」、「導入要件が厳格」であるが、これを拡大しようと言うのが「社長100人」の希望らしい。
労働者としては「非常に危険な傾向」と認識した方が良いように思う。
「脱時間給」について
いつの間にか各マスコミで取り上げられるようになったような気がする「脱時間給」。名前からして、労働者にとっては聞き捨てならない。「最低賃金」や「過労死ライン」などの労働にまつわる重要なものは時間で規定されている。その様な現状において「脱時間」とは、おいそれと容認できるものではない。
ちなみに脱時間給制度について、以下のサイトの解説が興味深い。
脱時間給制度とは? - 未払い残業代請求対応労務管理対策室、労使トラブル未然防止と経営リスク回避
ここで示されている「歓迎派」の意見は次のとおり。
・米国で6年間、帰国後、会社に居残っていれば残業代がもらえる制度に違和感
・新制度の導入を機に、職場に遠慮して早く帰宅しづらい企業文化が変わればいい
・電話会議などを利用して自宅で効率的に仕事ができる。ランニングや勉強など、私生活の時間も増える。
※H27.2.7読売新聞より 原文まま
3つ目は良い方向に進んだ場合の建設的な意見で好印象を受けるが、それ以外の2点には大きな疑問がある。
「会社に居残っていれば残業代がもらえる制度」や「職場に遠慮して早く帰宅しづらい企業文化」は現行の時間給制度とは何の関連もないのではないか?この様な安易な意見が世に出てしまう日本は、やはり問題だと思う。
「会社に居残っていれば残業代がもらえる」について
現行の残業代をその様に捉えるのであれば、それは果たして労働者の責任なのであろうか?
答えは「否」だ。
問題は社員の勤務時間を適正に管理していない管理職(企業)にあるのだ。このブログでは再三述べているが、「管理職が機能していない」のが日本企業の最大の問題なのである。このおかげで時間を意識して働く勤勉社員が損をする事態になっている。
「会社に居座るだけで残業代を貰えている」ような社員を放置する企業に問題があるのであって、労働者に責任はない。
残業代目的に「ただ居座るだけ」と言う社員をどうにかしたいなら、管理職が丁寧に指導すれば良いだけのことである。企業側がマネジメントを怠っているに過ぎないと言える事のために、なぜ国がワザワザ制度を設けなくてはならないのか?
「職場に遠慮して早く帰宅しづらい企業文化」について
これも上記と同様。遠慮させるような職場の空気をつくりだしているのが、そもそもの問題なのではないのか?これも企業が自身のマネジメントによって解決すべき事案なのではないのか?
後編につづく
以上のように、社長100人が期待する「働き方改革」は労働者にとって「非常に危うい」と感じないだろうか?
表向きは「良いこと」が前面に出ているように見えるが、裏に何が潜んでいるか?を我々は注意深く見ていかなければならないと思う。
後編に続く。