博多陥没一週間で復旧! しかしそのメンタルがブラック労働を生む源泉なのだ
博多の道路陥没がたったの1週間で復旧された。その迅速さを称賛する海外の声が話題になっている。
海外を中心に日本の技術力と効率性が賞讃され、「やっぱり日本って凄いんだなぁ」と思った日本人も多いだろう。だが、あらゆるメディアの報道でも抜け落ちていることがある。この「迅速な復旧」の陰には、それに尽力した労働者たちがいることを忘れてはならないのだ。
「一時間でも早く」がブラック労働を産む
今回の復旧に際して、その旗振り役となったのが福岡市長であり、以下のような発言をしていたそうだ。
「一時間でも早く市民の皆さんの日常を取り戻すことに加えて、この事故は全国だけでなく世界が見ているからこそ、日本の底力を見せるためにも早期復旧に力を貸して頂きたいとお願いしています。」
そんな高島市長が設けた期限は、事故から1週間。それまでに何としてでも道路を通行可能にすると、やはりブログで明らかにした。
原文まま
私も公共事業の災害復旧に携わる者として常々思うが、無理をしてでも対応しなければならない時は「人の命がかかっているとき」だけだと思っている。今回の「陥没」で考えれば、工事中に異変を察知し「事態に備えて交通規制をかけたり、人々を避難させる」までは無理してでも実行しなければならないだろう。
しかし「陥没」が起こってしまった後の復旧には「一時間でも早く」は必要ないと私は思う。もちろんインフラが破断したことで周囲の企業や飲食店は営業できない事態になっているが、非常事態である。命が取られるわけでもあるまいし、無理して「一時間でも早く」復旧する必要はない。
どちらかと言うと莫大な金額になりそうな「休業補償」を少しでも安くするためと言うのが本音ではないのか?と穿った考えが頭をよぎってしまった。もちろん福岡市が支払う休業補償は税金から支払われると考えれば、市民のためにも少しでも早い復旧が望ましいのは間違いない。
しかし私たちは、その迅速な復旧の裏には「労働者の頑張り」があることを忘れてはならない。いくら技術力が高くても、それを確実に実行する労働者がいなければ迅速な復旧などありえない。実行体制についての詳しい情報はないが、おそらく現場は「3交代」で実施されていたであろうと思う。
特に建設業の現場作業員の勤務時間は適切に管理されているので、少なくとも肉体労働中心のブルーカラーは、交代制で無理な労働には従事していないだろう。
問題なのは、彼ら作業員を統括する現場監督的な立場の人間や、技術に携わる人間の労働環境の方であろう。彼らは半分以上はホワイトカラー的な仕事の仕方をしているので、かなり大変だったのではないかと思う。
あれだけの工事を短時間で実行するからと言って、無計画に闇雲に実施したなんてことはありえない。曲がりなりにも公共事業であるからには、事前の設計を厳密に実施して、材料の数量計算や工程計画を立案したはずだ。税金を投入する工事であるからには、あらゆる経費に「根拠」がなければならない。「なぜその工法を採用したのか」「なぜその材料を選定したのか」それぞれに明確で適正な理由が必要なのである。そのための計画立案には非常に高度な技術力が必要であり、おそらく大成建設の技術者が何日か徹夜したのではないか?と想像してしまう。
必ずどこかにしわ寄せがある
復旧工事には「オール福岡」で挑んだとのこと。従事した人々は大きな使命感に燃えて、懸命に役割を全うしたことだろう。心より敬意を表する。
そして集結した彼らは、もともとどこか別の場所で仕事をしていたハズだ。つまり、その工事はストップしてしまっているのである。彼らを集めたのは市長だが、彼らが陥没復旧に従事するためにストップさせた現場が「市発注の現場」とは限らない。国の仕事や県の仕事、隣の市町村の仕事である可能性もある。彼らが陥没復旧に従事したからと言って、その分工期を延長したりはしない。その分、夜間工事や休日出勤で「無理」をすることになるだろう。
少なくとも私が見た限りでは、その様な観点での報道は見られなかった。災害時の報道はいつもそうなのだが、「被災者の苦労」や「自衛隊員の不眠不休の救助活動」などの煽情的な報道ばかり。その裏で復旧のために活躍している現場作業員や技術者の苦労は目に入っていない。「一日でも早い復旧を」と言っている陰で、どれだけ「過労死」に片足を突っ込んでいる技術者がいることか。
市長とマスコミの「安全性」の観点のすれ違い
それと、もう1つ気になったのが「安全性」に関する問題だ。以下の記事で触れられている「安全性」は、市長(当事者)と記事の筆者で見事なまでの「すれ違い」があって驚いた。
以下、問題部分をそのまま引用する。
これほどのスピード工事で、安全性には問題ないのだろうか。高島市長は、ブログでこう強調している。
安全第一で、絶対に2次被害を出さずに復旧することを工事関係者にお願いをしています。立ち止まる勇気も含めて。また道路が出来ても専門家などに強度を確認して頂き、ゴーサインが出ない限り通行許可はしません。
つまり、通行許可が出れば、その安全性は確実ということだろう。11月14日に開かれた会見でも、「元の地盤より30倍の強度があり、市民の安心感につながる」と語っている。
原文まま
市長の発言は物凄く全うだ。「安全性」について2つの着眼点を持っている。スピード工事で心配になるのは、「労働者の安全」と「成果物の品質」である。市長が冒頭に述べている「安全第一」「2次被害を出さない」「立ち止まる勇気」は労働災害を発生させないと言う観点の発言だ。
しかし、筆者はそれを見事なまでにスルーしており、「品質」にしか着眼していないようだ。つまり「スピード工事で品質に問題があり、また陥没して被害が出たら困る」の方の安全しか頭にないように感じる。
「確実な品質を確保した上でのスピード復旧」ばかりでなく、「従事している労働者の安全確保」についても是非着目して欲しいものだ。
おわりに
今回の博多の陥没事故に関しては、公共事業の様々な問題があるように思う。何故、陥没してしまったのか?事前に綿密な調査を実施したのか?安易に安価な工法を選んでしまっていないか?今後は原因究明がなされていくことだろうと思う。
一方で、迅速復旧に対して賞讃する声や、安全面の問題を指摘する記事はあっても、その迅速性の裏の労働者の苦労にスポットが当たらないのは非常に残念に思う。
最近では電通事件を中心に、かなり労働問題に注目される世の中になったと思ったが、まだまだ「過労自殺」や「パワハラ」などの分かりやすい問題にしか目がいかないようである。今後は、今回の「迅速復旧」のような話題に際し、その裏に潜むブラック労働の可能性にも着目するようになって欲しい。
また1つ付け加えておきたいが、この復旧工事に際して集結した建設業者には、「無理して頑張った」ことに対する割増報酬はいっさい無いだろう。公共事業である限り、あくまで「通常料金」しか支払われないと思う。例えば台風や地震によって発生した「土砂災害」への対応は、業者にとって儲からないと言われている。下手すると赤字になりかねないと言う。なぜなら、短時間に業務が集中するため、その分コストがかかっている割に、国や自治体からは「通常料金」しか貰えないからだ。
その様な現状を改めるためにも、是非マスコミには、裏方の労働者の苦労にも着目するようになって欲しいと切に願う。
特に最近では災害普及などの迅速性に対して「やっぱり日本はスゴイ」と言う論調をよく目にするが、それは「高い技術力」だけでなく「ブラック労働を前提とする日本」だからこそ実現できると言うことに、みんなそろそろ気付いて欲しいものだ。
よろしければ、こちらもお読みください。
もし、なるほど!と思って頂けたら、読者ボタンを押して貰えると嬉しいです(^^)